PBXも電話交換機である
電話交換機は、複数の電話回線の中から接続先を選び、通話の経路を作る装置またはシステムである。
したがって、電話交換機とPBXは完全に別のものではない。
PBXは、電話交換機の一種である。
一般に「電話交換機」とだけ言うと、電話会社の局舎やネットワーク内部に置かれ、多数の加入電話や別の交換機をつなぐ公衆網側の交換機を指すことが多い。
一方、PBXはPrivate Branch Exchangeの略で、日本語では構内交換機と呼ばれる。会社、ホテル、病院、学校、工場などの内部に設置され、内線同士や、内線と外線を接続する。
家庭や公衆電話
↓
電話会社の加入者交換機
↓
中継交換機と公衆電話網
↓
会社の外線
↓
PBX
├─ 内線101
├─ 内線102
├─ 受付
├─ 会議室
└─ 留守番電話や案内装置
すべてのPBXは交換機だが、すべての交換機がPBXではない。
公衆網の交換機
電話会社側の交換機は、利用者がダイヤルした電話番号を読み、どの交換機を経由して相手へ接続するかを決める。
古い電話網では、加入者の電話機を直接収容する加入者交換機と、交換機同士を結ぶ中継交換機などが階層的に配置されていた。
加入者
↓
加入者交換機
↓
中継交換機
↓
別地域の加入者交換機
↓
相手
ここで扱われる番号は、社会全体で通用する電話番号である。交換機は、それぞれの利用者が電話網のどこにいるかを知り、通話路、課金、各種サービスを制御する。
電話網全体から見れば、交換機は都市や地域を結ぶ中枢である。
PBX――組織の中にある私設電話網
PBXは、電話会社の公衆網へ接続されながら、その内側に別の番号体系を作る。
会社の代表番号へ着信すると、PBXが受付、部署、個人の内線へ振り分ける。建物の中では、外部の電話番号ではなく、三桁や四桁の内線番号だけで通話できる。
外から見えるもの
= 会社の代表電話番号
会社の中にあるもの
= 数十、数百、数千の内線番号
PBXは、電話会社が行っている交換機能を、企業や施設の内側でも行う装置だった。
PBXは、建物の中に置かれた小さな電話会社である。
内線、代表着信、保留、転送、時間外案内、会議通話、ボイスメール、通話記録などが、その小さな電話網の機能として組み合わされた。
境界に立つ機械
PBXの面白さは、公衆網と私設網の境界に立っていることにある。
電話会社が管理する公衆網
↓
外線
↓
企業や施設が管理するPBX
↓
内線網
公衆網から来た通話を内線へ渡し、内線からの通話を公衆網へ送り出す。
そこでは、異なる管理者、番号体系、課金、認証、保守方法が接続される。
- 公衆電話番号と内線番号
- 電話会社の設備と企業所有の設備
- 外部利用者と内部利用者
- 通話をつなぐ機能と、料金を負担する主体
- 正規利用と遠隔保守
- 利便性のために開かれた入口と、認証の弱さ
PBXは便利な中継点であると同時に、複数の信頼が接触する場所でもあった。
なぜphreakerがPBXを見たのか
公衆電話網の大型交換機は電話会社が運用し、利用者から遠い場所にあった。
PBXはそれより身近だった。企業、ホテル、学校、病院などに置かれ、製品や設定、運用担当者によって構成が異なった。
PBXには、外部からの着信、内線への接続、ボイスメール、遠隔保守、外線への発信など、多数の機能が集まっていた。そのため、設定不備や古い認証、管理されない機能が残ると、組織の内側の電話網が外部へ露出することがあった。
電話会社の交換機そのものを動かす代わりに、私設交換機へ入り、そこから外線へ戻る。
公衆網
↓
企業のPBX
↓
内線または外線機能
↓
再び公衆網
この構造は、通話料金をPBXの所有者側へ負担させる不正利用にも結び付いた。
ここで問題になったのは電話の音だけではない。
- 番号体系
- 暗証番号
- ボイスメール
- 転送
- 遠隔保守
- 回線選択
- 課金主体
- 初期設定のまま残された機能
電話網がデジタル化した後も、phreakingはPBXやボイスメールなど、電話サービスの境界へ移っていった。
Mr. PBX
私の記憶には、Mr. PBX――ミスターPBXと呼ばれる人物がいる。
調べてみると、その記憶は間違っていなかった。
ミスターPBXは、日本の電話、国際電話、交換機、phreaking文化を語った人物のハンドルネームである。1995年には、クーロン黒沢、ガスト関とともに『さわやかインターネット――ネットの達人』の著者として名を連ねている。
2009年のセキュリティイベントAVTOKYOでは、mR-pBx名義でPhreakingを題目とする登壇者として掲載された。主催者の紹介文では、国際電話が高価だった時代のアナログPBXに精通したphreakerとして位置付けられている。
後年には、電話機器を多数持ち歩き、秋葉原を歩き、電話と通信へ極端に深く入り込んだ人物として映像作品やインタビューにも登場した。
本名ではなく、PBXそのものを名乗ったことが象徴的である。
電話機ではなく、その背後で番号と回線を振り分ける機械を名乗った人。
電話をかける利用者ではなく、電話がどうつながるかを見る者の名前だった。
私の記憶
電話交換機とPBXは別のものだったか。そう考えているうちに、私はMr. PBXという人物を思い出した。
電話交換機
PBX
内線
国際電話
秋葉原
Mr. PBX
これらは別々の単語ではなく、電話網を表面の電話機から、その背後の交換構造へ向かって見ていく一続きの記憶である。
公衆電話の機種差、カードユニット、公衆電話番号、Phreaking Boxesの次にPBXが現れると、収蔵対象は一台の端末から、端末をつないでいる小さな網へ広がる。
電話機の裏には交換機があり、会社の中にはもう一つの電話網があった。
関連標本
- 電話交換機
- 加入者交換機
- 中継交換機
- 公衆交換電話網(PSTN)
- PBX
- 構内交換機
- 内線番号
- 代表番号
- ダイヤルイン
- ボイスメール
- 遠隔保守
- 通話料金
- toll fraud
- Phreaking Boxes
- Mr. PBX
- クーロン黒沢
- 『さわやかインターネット――ネットの達人』
- AVTOKYO
- ラジオライフ