普通の書店に置かれた入口
『ラジオライフ』は、三才ブックスが1980年に創刊した雑誌である。
誌名には「ラジオ」とある。創刊時の中心にはラジオ番組、BCL、アマチュア無線、業務無線の受信があった。
しかし、誌面は次第に、電波を聞くことだけでは収まらなくなった。
- 警察・消防・航空・鉄道などの業務無線
- 受信機や無線機の比較・改造
- 周波数情報
- 盗聴器と盗聴発見
- 電話・公衆電話・テレホンカード
- 家電、映像機器、ゲーム機、コンピュータの改造
- セキュリティ、コピー防止、認証
- 街や制度の裏側
これらが、一冊の中で隣り合った。
『ラジオライフ』は、見えない電波を聞く雑誌から、社会を動かす見えない仕組みを読む雑誌へ広がった。
情報がまだ場所に縛られていた時代
インターネットが一般家庭へ普及する前、専門的な情報は検索して即座に得られるものではなかった。
情報には場所があった。
無線機店
秋葉原の部品店
専門書店
電話や電子工作に詳しい知人
パソコン通信
雑誌の読者投稿
バックナンバー
『ラジオライフ』は、それらの場所に散らばっていた知識を毎月一冊へ集めた。
三才ブックスは、1980年代の同誌を、インターネットが一般化していなかった時代の高感度な読者にとって濃密な情報源だったと振り返っている。
雑誌は単に記事を載せる媒体ではなかった。
- 新製品や改造対象を知らせる
- 周波数や受信報告を共有する
- 読者の実験を次の読者へ渡す
- 通販や部品販売へ接続する
- 知らなかった言葉と分野を隣に置く
- 次に調べる対象を増やす
紙の雑誌そのものが、低速の検索エンジンであり、定期的に届くネットワークだった。
無線を聞くという原型
『ラジオライフ』の根にあるのは、受信である。
空間には、目に見えない電波が飛んでいる。受信機の周波数を合わせると、そこから人の声、符号、業務連絡、放送が立ち上がる。
何もないように見える空間
↓
周波数を合わせる
↓
声や信号が現れる
↓
背後にある組織や制度を想像する
受信は、システムを壊さずに外側から観察する行為である。
ただ聞くだけでも、通信の存在、運用時間、用語、役割分担、街の動きが見えてくる。
この姿勢は、後のphone phreaking、network scanning、SDRによる電波観測にもつながる。
見えないものは、存在しないのではない。受信する道具と、合わせるべき周波数が必要なだけである。
技術とアングラが同じ誌面にあった
『ラジオライフ』は、正規の機器紹介と、その機器がメーカーの想定を越えて何をできるかを、しばしば同じ誌面で扱った。
そこでは、次の境界が近かった。
- 製品レビューと分解
- 使用方法と改造
- 受信と傍受
- 防御と回避
- バックアップとコピー
- 実験と不正利用
- 好奇心と違法性
技術は、正しい用途だけを持つ完成品として紹介されなかった。
機械を開ける。仕様書を読む。隠された設定を探す。別のアンテナをつなぐ。信号の意味を調べる。
メーカーが与えた機能ではなく、機械が実際には何をできるのかを見る。
この視線が、『ラジオライフ』を普通の家電誌や無線誌とは違うものにした。
テレホンカードと公衆電話
当サイトで収蔵している緑の公衆電話、変造テレホンカード、カードユニット、機種ごとの対策差は、『ラジオライフ』の世界と強く重なる。
三才ブックス自身も、過去の同誌が警察無線の受信、変造テレホンカード、盗聴など、他では得にくい情報を紹介してきたと説明している。
公衆電話を一台の完成品として見るのではなく、内部へ分解する。
緑色の筐体
├─ 電話回線
├─ 課金回路
├─ 硬貨処理部
├─ カードユニット
├─ 残度数表示
└─ 機種ごとの検査方式
雑誌のページを介して、街角の公共設備が、型式と部品を持った解析対象へ変わる。
日常の背景だった公衆電話が、急に「内部を持つ機械」として見え始める。
改造記事の物質性
改造記事には、ソフトウェアだけではない手触りがあった。
- 本体を開けるためのねじ
- 基板の写真
- 部品番号
- 切る線とつなぐ線
- はんだごて
- ICや抵抗、コンデンサ
- 改造後も元と変わらない外観
読者は記事を読んだだけでは終わらない。
雑誌を机の横へ開き、機械を分解し、図と実物を見比べる。
雑誌の回路図
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部品店で買った小さな部品
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開かれた機械の基板
↓
所有者自身が変更した機能
『ラジオライフ』は、情報を読むための雑誌であると同時に、工作台の上で使われるマニュアルでもあった。
広告も資料だった
雑誌の価値は本文記事だけではない。
誌面の広告や通販欄には、その時代に何が売られていたかが残っている。
- 広帯域受信機
- 無線機
- アンテナ
- 周波数帳
- 電子部品
- 盗聴器や発見器
- 改造済み機器
- 公衆電話やカード関連の部品
- ゲーム機改造サービス
- 複製機器や特殊な工具
現在から見れば、広告は技術の周辺市場を記録した一次資料になる。
どの機械が欲望の対象だったか。何が店頭ではなく通販で売られていたか。どの言葉なら公に印刷できたか。
記事と広告を合わせて読むことで、その時代のアングラ技術が、どの程度まで商業流通していたかが見えてくる。
2600 Magazineとの対照
『ラジオライフ』と『2600: The Hacker Quarterly』は同じ雑誌ではない。
2600は、phone phreakingとhacker共同体から生まれたアメリカの定期刊行物である。
ラジオライフは、無線・受信の趣味誌から出発し、日本の商業出版と全国の書店流通の中で、改造とアングラ情報へ領域を広げた。
2600 Magazine
= 海外にある地下共同体の紙の記録
ラジオライフ
= 日本の普通の書店で買える、技術の裏側への入口
私にとって2600 Magazineは、存在を知りながら当時は入手できなかった物だった。
その一方で、『ラジオライフ』は日本語で印刷され、書店の雑誌棚に置かれていた。
海の向こうの地下文化に憧れる一方で、国内の書店には、すでに別の入口が開いていた。
犯罪雑誌ではなく、境界の雑誌
『ラジオライフ』には、悪用され得る情報も載った。
しかし、その全体を単に犯罪雑誌と呼ぶと、誌面が持っていたものを取り逃す。
- 電波を聞く喜び
- 機械を分解する好奇心
- 公共システムを型式と部品で見る視線
- メーカーの説明をそのまま信じない態度
- 技術の可能性と規制の境界
- 読者同士が知識を持ち寄る文化
- 市販品を自分の物として作り替える感覚
そこにあったのは、社会の裏に秘密組織がいるという話ではない。
日常の機械や制度にも、説明されていない構造があるという感覚だった。
私の記憶
私にとって、『ラジオライフ』は当サイトに欠かせない雑誌である。
ただ、いつ読み始めたのか、毎号買っていたのか、どの記事を保存していたのか、テレホンカードや公衆電話の情報を同誌から得たのかは、まだはっきり思い出せない。
それでも、これまで収蔵してきた題材の多くが、その誌面の周囲へ集まる。
無線
公衆電話
テレホンカード
カードユニット
盗聴
電話番号
電子工作
秋葉原
ゲーム機改造
コピー防止
ラジオライフは、一つの標本ではなく、多くの標本が出入りする入口だった。
関連標本
- BCL
- アマチュア無線
- 警察無線
- 業務無線
- 周波数帳
- 広帯域受信機
- 盗聴と盗聴発見
- NTTの緑の公衆電話
- テレホンカード
- 公衆電話カードユニット
- Phreaking Boxes
- 秋葉原
- PlayStation modchip
- CD-R
- ゲームラボ
- 2600 Magazine
- Phrack
- データが物質だった頃