BOXという分類体系
Phreakingの歴史には、Blue box、Red box、Black boxなど、色の名を付けた道具が何種類も現れる。
これらは電話会社が定めた正式な製品分類ではない。phreakたちが、電話網のどの信号、課金、端末、交換機へ作用するものかを呼び分けるために育てた地下の分類体系である。
最初に広く知られたBlue boxを原型として、別の仕組みを扱う道具や回路にも色名が与えられていった。
ただし、すべてが文字どおり箱型の完成品だったわけではない。
- 発振器を収めた小箱
- 改造した電話機
- 電話線へ挿入する簡単な回路
- 保守作業員用端末に似た道具
- 二本の回線を組み合わせた構成
- 文書上で提案されたが、実物の存在がはっきりしない装置
までが、まとめてboxと呼ばれた。
BOXは、電話網について発見した知識を、手で持てる回路や構成へ変換したものだった。
Blue box
Blue boxは、phreakingを象徴する最も有名なBOXである。
旧来の長距離電話網では、利用者の声と、交換機同士を制御する信号が同じ音声経路を通っていた。Blue boxは、電話網が命令として認識する音を発生させ、利用者側から長距離回線の制御層へ触れようとした。
ここで露出したのは、音声と制御信号が十分に分離されていなかったことである。
人間の声を運ぶ経路
=
交換機への命令も通る経路
Blue boxは、電話網が「誰が音を出したか」ではなく、「正しい形の音が届いたか」を信用していた時代の標本である。
Steve WozniakとSteve Jobsが1970年代初頭にBlue boxを製作・販売した話もよく知られている。Apple以前の二人にとって、回路を作り、製品としてまとめ、他者へ渡す最初期の共同経験だった。
Red box
Red boxは、硬貨式公衆電話が、投入された硬貨を電話網へ報告する仕組みに関係したBOXである。
交換側が直接見ていたのは硬貨そのものではない。公衆電話から送られてくる、硬貨が投入されたことを表す信号だった。
硬貨という物質
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公衆電話による検出
↓
入金を表す信号
↓
電話網の課金判断
Red boxは、この途中にある「硬貨」と「硬貨が入ったという情報」のずれへ触れた。
これはテレホンカードや電子マネーにも続く問いである。
システムは価値そのものを見ているのか。それとも、価値が提示されたことを示す情報を信用しているのか。
Black box
Black boxは、着信した通話が現実には始まっていても、交換機側にはまだ応答していないように見せようとした回路である。
古い機械式交換システムでは、呼出音を止める判定と、課金を開始する判定が、異なる電気的条件やリレーに結び付いている場合があった。
Black boxは、その差を利用しようとした。
人間の現実:通話は始まっている
交換機の記録:まだ応答していない
このBOXが示すのは、現実に起きたことと、システムが記録したことが同じとは限らないという問題である。
Green box
Green boxは、硬貨式公衆電話における硬貨の回収、返却、呼び戻しなどの制御に関係したとされるBOXである。
Red boxが「硬貨が投入された」という報告側に触れたのに対し、Green boxは、投入された硬貨をその後どう扱うかという制御側へ近い。
Green boxについては、1980年代初頭のphreaking文書やニュースレターで提案された記録がある一方、広く使われた完成品が実在したかは明確ではない。
そのため、Green boxは物理標本であると同時に、文書の中で設計され、複製された想像上の機械でもある。
Beige box
Beige boxは、電話会社の保守作業員が使うlineman's handsetに相当する道具を、一般の電話機などから作ったものを指した。
特徴は、電話回線へ一時的に接続して、回線の状態を確認したり通話したりできることにある。
Blue boxやRed boxのように特殊な制御音を生成する道具ではない。電話網の信号を偽装するのではなく、電話線そのものへ物理的に接触する。
Blue / Red box
= 信号の意味へ触れる
Beige box
= 信号が流れる線へ直接触れる
正規の保守作業では必要な道具でも、許可なく他者の回線へ接続すれば、盗聴、不正利用、通信の秘密の侵害に直結する。
Beige boxは、同じ道具でも、権限と使用場所によって保守機器と侵入器具が反転することを示す。
Silver box
Silver boxは、通常の電話機にある12個のDTMFキーへ、さらにA、B、C、Dの4キーを加えた16キーのトーンダイヤル装置を指す。
この追加キーは、軍用電話網のAUTOVONや、一部のPBX、無線機、交換設備などで特殊な制御や優先順位を示すために使われた。
通常の利用者用電話機では見えないキーが、通信システムの内部には存在していた。
Silver boxは、電話番号を入力するためのキーパッドが、単なる0から9までの数字盤ではなく、利用者には隠された命令語を持つ操作卓でもあったことを見せる。
Clear box
Clear boxは、一部の後払い式公衆電話で、硬貨を投入するまで送話器だけが無効になる仕組みに関係したBOXである。
外部のマイクや増幅器を受話器へ結合し、電話機自身の送話器が止められていても音声を回線へ乗せようとした。
ここで分離されているのは、聞くことと話すことである。
着信音声を聞く経路:開いている
こちらの声を送る経路:硬貨投入まで閉じている
Clear boxは、電話機が一つの装置に見えても、受話と送話が別々の権限として制御され得ることを示している。
Gold box
Gold boxは、二本の電話回線を使い、片方で受けた通話をもう片方の回線へつなぐdiverter、転送・中継装置を指した。
単独の交換機信号を模倣するというより、複数の正規回線を組み合わせて、電話網が想定していない経路を作る。
着信する回線
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Gold boxによる中継
↓
別の発信回線
このBOXが操作するのは一つの信号ではなく、回線同士の関係である。
電話網が提供する接続を部品として使い、利用者側で別の小さな交換構造を作るという点で、PBX、電話転送、会議接続、後のVoIPルーティングにもつながる発想を持っている。
色名が増殖した理由
Blue、Red、Black、Green、Beige、Silver、Clear、Gold。
色の名前は、実際の筐体の色を示すとは限らない。多くの場合、phreaking文書の中で道具を識別するための符牒だった。
新しい仕組みが見つかるたびに、新しい色や素材名が割り当てられた。その結果、BOX群は電話網を別の方法で分類する索引になった。
電話会社の分類
├─ 交換機
├─ 回線
├─ 公衆電話
├─ 課金
└─ 保守設備
phreakのBOX分類
├─ Blue:長距離網の制御信号
├─ Red:硬貨投入の報告
├─ Black:応答と課金開始
├─ Green:硬貨の回収・返却制御
├─ Beige:電話線への物理接続
├─ Silver:隠された追加キー
├─ Clear:送話経路の制限
└─ Gold:二回線による中継
電話会社が設備の所有者側から分類したのに対し、BOX群は、利用者側から見つけた信頼境界によって電話網を色分けした。
立体的な技術文書
BOXを作るには、電話網の動作を理解し、それを回路図へ落とし、部品を集め、はんだ付けし、箱へ収める必要があった。
電話網の観察
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信号や判定条件の発見
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文書と回路図
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部品と配線
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手で持てるBOX
現在なら、同じ種類の知識はソフトウェア、SDRの設定、ファームウェア、スクリプトとして保存されるかもしれない。
当時は、知識が物理的な小箱になった。
Phreaking BOXは、電話網についての理解を封じ込めた、立体的な技術文書だった。
写真と保存資料
BOX群のうち、実物写真が最も多く残っているのはBlue boxである。博物館収蔵品、個人製作機、WozniakとJobsに関係する個体など、複数の写真を確認できる。
Black boxについては、アメリカのTelephone Museumに収蔵された展示品の写真がWikimedia Commonsで公開されている。Beige boxにも自作品の写真がある。
今回確認できた範囲では、Red、Green、Silver、Clear、Goldの確実な歴史的実物写真はBlue boxほど多くない。後世の再現品、ソフトウェア画面、概念図が混ざるため、展示へ利用する際は来歴を確認する必要がある。
Blue box
- Wikimedia Commons|Blue box画像カテゴリ
- Computer History Museum|Internet History, 1970s
- Computer History Museum|Steve Jobs
- Bonhams|Blue Box, circa 1972
- IEEE Spectrum|Phreaking Out Ma Bell
Black box / Beige box
関連標本
- 2600Hz
- MF signaling
- DTMF
- 公衆電話
- 硬貨式課金
- テレホンカード
- 電話交換機
- PBX
- AUTOVON
- Lineman's handset
- Signaling System No. 5
- Captain Crunch
- Steve Wozniak
- Steve Jobs
- 2600 Magazine
- Flipper Zero
- HackRF One