名前より先に、電話網を探る者がいた

phreakは、電話網の仕組みを調べ、信号、交換機、課金、番号体系などへ利用者側から接近した者を指す語である。

しかし、語が現れた時期と、行為が始まった時期は同じではない。

1960年代以前から、電話網の音を聞き分け、特殊な回線や交換機の挙動を調べ、離れた実践者同士で知識を交換する人々は存在していた。

電話網を観察する者が現れる
                ↓
        方法や人物が口伝・電話・文書でつながる
                ↓
        後から phone phreak という名前が付く
phreakingという実践が先にあり、phreakという名前は後から来た。

1971年――phone phreakが活字へ出る

現在確認しやすい早い活字例の一つは、1971年9月29日の米国新聞記事である。

長距離電話回線の不正利用をめぐる逮捕を報じた見出しに、Phone Phreakという表現が使われた。

その翌月、1971年10月の米国誌『Esquire』に、Ron Rosenbaumの長編記事Secrets of the Little Blue Boxが掲載された。

この記事には、Blue box、2600Hz、電話交換網、Captain Crunch、Joe Engressia、Mark Bernayらが登場した。

記事は、地下で共有されていた人物、技術、語彙を、一般読者が読める雑誌のページへ持ち出した。

1971年9月
        新聞見出しに phone phreak
                ↓
        1971年10月
        『Esquire』が文化ごと紹介
                ↓
        phone phreakという呼称が一般社会へ広がる
1971年は、phreakが生まれた年というより、名前を付けられて外から見えるようになった年である。

1972年――phoneが落ちる

当初の形はphone phreakだった。

やがてphoneが省略され、単独のphreakが名詞や動詞として使われるようになった。辞書類では、単独形の確認可能な初出を1972年としている。

phone phreak
              ↓
        phreak
              ├─ phreaker
              ├─ phreaking
              └─ to phreak

ただし、辞書の「初出年」は、その語が実際に初めて発音された瞬間を示すものではない。

印刷物に残る前から、口頭、電話、私信、地下文書の中で使われていた可能性はある。

phoneとfreak

語の基本的な作りは、phonefreakの結合である。

phone
          +
        freak
          ↓
        phone phreak

freakの頭文字を、phoneに合わせてphへ置き換えた。

この綴りは、電話を好む奇人というだけではない。

普通の利用者には見えない音、番号、回線、交換規則へ異常なほど惹かれる者を、少し自嘲的に、少し誇らしく呼ぶ名前だった。

freeとfrequencyは後から重なった

phreakは、しばしば次の語も含むと説明されてきた。

  • free――無料通話
  • frequency――電話網を動かす周波数
  • freak――熱中する者、逸脱した者

これらはphreaking文化の性格によく合う。

しかし、語源として最も堅い説明は、まずphone + freakの綴り替えである。

freefrequencyは、語が使われる中で意味を重ねられた説明と見る方が安全である。

一語の中に、電話、周波数、無料通話、逸脱者という複数の像が沈殿した。

電話だけに閉じない語になる

phreakは電話網から生まれた。

その後、ハッカー文化では、fphへ置き換える綴りが、技術的な逸脱や地下文化を示す符牒として使われるようになった。

後のphishingという綴りにも、phreak文化の影響が指摘されている。

一方で、phreakingを単なる電話料金の不正回避と定義すると、語が持っていた広がりを失う。

そこには、次の行為が重なっていた。

  • 電話網の音を聞く
  • 番号体系を調べる
  • 交換機の挙動を観察する
  • 公衆電話やPBXの差異を見る
  • 回路やBOXを作る
  • 発見を電話、雑誌、BBS、textfileで共有する
  • 巨大な通信網を、利用者側から理解し直す
phreakとは、電話を無料で使う者だけではない。電話網を、与えられた使用法とは別の方向から読む者だった。

hackerとの接続

phreakが現れたころ、コンピュータの周囲にはすでにhackerという別の文化があった。

両者は最初から同一ではない。

phreak
        = 電話、交換、信号、課金、回線
        
        hacker
        = コンピュータ、プログラム、機械、ネットワーク

しかし、電話回線がモデムを通じてコンピュータへつながると、両者の領域は重なっていった。

電話番号を探し、PBXへ入り、モデムの応答を見つけ、パソコン通信やネットワークへ接続する。

phreakingは、hacking以前の遺物ではなく、通信網とコンピュータ網が接続された場所に残り続けた。

この標本が示す時間差

phreakという語の歴史には、三つの時間がある。

実践の時間
        = 1950~60年代以前から電話網を探る者がいた
        
        命名の時間
        = 1971年に phone phreak が活字で広く見える
        
        短縮と定着の時間
        = 1972年前後に phreak が独立した語になる

この時間差は、文化がどう生まれるかを示している。

先に行為がある。次に仲間がつながる。その後、新聞や雑誌が名前を与える。最後に、その名前を当事者自身が引き受ける。

名前が文化を作ったのではない。すでにあった文化が、名前によって輪郭を持った。

関連標本

  • Phreaking
  • Phone phreak
  • Phreaker
  • Hacking
  • Hacker
  • Blue box
  • 2600Hz
  • Captain Crunch
  • Joe Engressia
  • Mark Bernay
  • Secrets of the Little Blue Box
  • 2600 Magazine
  • Phreaking Boxes
  • 電話交換機とPBX
  • Mr. PBX
  • ラジオライフ
  • Usenet / alt.2600
  • TEXTFILES.COM

写真・保存資料

資料・出典