概要
Wizard Bibleは、日本語圏のハッキング、クラッキング、リバースエンジニアリング、暗号、ネットワーク、物理セキュリティ、アンダーグラウンド文化を扱ったWebマガジンである。
現在確認できるミラーでは、Wizard Bible自身が「不定期にリリースしているWebマガジン」であり、グループやチームに限らず、興味を持った事柄についてのレポートを発表する場だと説明している。
当サイトでは、Wizard Bibleを単なる古い記事集としてではなく、次のものが交差した標本として扱う。
- 日本語Web上の投稿型技術マガジン
- 旧アンダーグラウンド文化とセキュリティ教育の中間領域
- 個人サイト、e-zine、研究メモ、技術同人の交差点
- 危険な知識と防御的知識が同じ棚へ置かれた時代
- 法制度と保存文化が衝突した記録
何が貴重なのか
Wizard Bibleの貴重さは、記事の個別内容だけにあるのではない。
むしろ、複数の書き手が、当時の関心、語彙、倫理、技術水準、危うさを、号単位のWebマガジンとして残したことにある。
そこには、現在の整理されたセキュリティ教育だけでは見えにくいものが残っている。
個人サイトの文体
ハンドルネームによる投稿
攻撃者視点と防御者視点の混在
暗号・数学・ネットワーク・物理セキュリティの並置
実験、考察、読み物、危険な題材の同居
現在なら、CTF、脆弱性診断、マルウェア解析、フォレンジック、OSINT、物理セキュリティ、暗号学、インシデント対応は、それぞれ別の制度や職能へ分かれている。
Wizard Bibleでは、それらがまだ一つの好奇心の場に近い距離で並んでいた。
Webマガジンという形
Wizard Bibleは、紙の雑誌ではない。
しかし、単なるブログでも、掲示板ログでもない。
号があり、章があり、著者があり、読者と投稿者がいた。個別記事はWeb上で読めるが、全体としては「号」という束ね方を持っていた。
この形は、当サイトで扱う他の資料とよく接続する。
| 標本 | 媒体 | 共同体の作り方 |
|---|---|---|
| 2600 Magazine | 紙の雑誌 | 読者投稿と編集による定期刊行物 |
| Phrack | textfile / e-zine | 号単位で流通する地下技術誌 |
| 危険文書集 | ZIP / LZH / FTP / BBS | 出典不明の文書を束ごと複製する |
| Wizard Bible | Webマガジン | 日本語の投稿レポートを号単位で公開する |
Wizard Bibleは、紙の「危ない本」と、現代のセキュリティブログやCTF writeupのあいだにある。
旧アングラとセキュリティ教育のあいだ
Wizard Bibleの一覧を見ると、扱われる題材は広い。
ネットワーク、暗号、リバースエンジニアリング、マルウェア、フィッシング、Web、ハードウェア、物理セキュリティ、鍵、社会制度、イベントレポートまでが並ぶ。
この幅は、乱雑さでもある。
しかし、その乱雑さこそが資料価値である。
1990年代から2000年代の日本語圏では、「ハッカー」「クラッカー」「セキュリティ研究者」「アンダーグラウンド」「技術者」「趣味人」の境界が、現在ほど制度化されていなかった。
Wizard Bibleは、その境界が揺れていた時期の空気を保存している。
閉鎖告知も標本である
現在のミラーには、Wizard Bibleが閉鎖に至った経緯を説明する告知が残っている。
告知では、一部の記事が問題視されたこと、デジタル機器の押収があったこと、問題となった記事を削除したこと、存続について警察と検察の見解が分かれたことが説明されている。
当サイトでは、この経緯を事件の興味本位な消費として扱わない。
重要なのは、投稿型の技術文書アーカイブが、次の問いに直面したことである。
- 危険な記事が一部に含まれるとき、全体の保存価値はどう扱われるべきか
- 著者、投稿者、運営者、読者の責任はどこで分かれるのか
- 問題のある記事を削除すれば、媒体全体は存続できるのか
- アンダーグラウンドな題材を扱うこと自体が、反省不足と見なされるのか
- 技術文化の保存は、法制度の中でどこまで許されるのか
Wizard Bibleは、ここで単なる記事集ではなく、保存と削除、教育と危険、共同体と責任の標本になる。
当サイトでの扱い
Wizard Bibleには、現在そのまま紹介しにくい題材も含まれる。
そのため、当サイトでは次の線引きで扱う。
| 扱うもの | 扱わないもの |
|---|---|
| 媒体としての歴史、号構成、投稿文化、語彙、閉鎖告知、保存状況 | 現行システムへ適用できる攻撃手順 |
| 日本語ハッキング文化とセキュリティ教育の接続 | マルウェア、侵入、フィッシング、個人侵害の再現手順 |
| 技術文書が危険文書と教育資料のあいだで揺れる構造 | 実行用コード、設定値、手順の転載 |
| 保存と削除、運営責任、法制度との衝突 | 問題化した記事の実用的再配布 |
ここで残すべきなのは、「何ができるか」ではない。
どのような場があり、どのような読者が集まり、どのような言葉で技術を語り、どこで社会制度と衝突したのかである。
関連標本
- 危険文書
- データハウス文献棚
- ハッカーの教科書
- ハッカーの学校
- 2600 Magazine
- Phrack
- TEXTFILES.COM
- Jargon File
- Usenet /
alt.* - 日本の草の根BBS
- パソコン通信
- reverse engineering
- crack / cracking
- hack / hacking
- Security Akademeia
- SECCON
- CTF